グローグーは目を覚ましたとき、下肢に違和感を感じた。──いつものように父ジャリンの腕のなかで眠りについたが、翌朝起きるときにはベッドにひとりきりだ。ジャリンの目覚めは早い、眠りが浅いのだとも思う。少しの物音で起きる。
きょうもジャリンは早々に起きて日課の鍛錬をワンセット終わらせたのだろう、朝食の準備に取りかかっている。
そのうしろ姿をベッドから見やったグローグーは違和感を確かめるため、自分の下腹へと手を伸ばした。……ぽっこりと膨れた腹は、赤ちゃんのようでかわいらしい、とペリは言ってくれるし、なんでも食べる食欲旺盛なところは子どもらしくていい、とカルガも言う。ヘルメットを被ったジャリンがどう思っているのかは、毎食充分な量の食事を作ってくれることからして明瞭だ。
「んーわ……?」
前開きパジャマの裾から手を入れて、パンツのなかを探る。股のあいだに感じる丸い違和感を、グローグーはむんずとつかみ上げた。
「ぷわわ?」
緑の三本指がつかんだのは、真っ白な、やや面長の卵だった。ジャリンが作ってくれるフライドエッグに使う卵よりいくばくか大きいようで、好みの菓子であるマカロンよりも大きい。……卵だよね、これ、とグローグーが手のなかのものをのぞき込んでいると、ジャリンに呼ばれた。
「おはようグローグー、顔を洗っておいで」
振り向いたジャリンは、グローグーが持っているものにいち早く気づいたようだ。
「なんだそれは、どこから出してきた? ここいらのカエルの卵にしてはデカいようだが……まさか新種か?」
「ンンー」
グローグーは首を振って、もう一方の手で自分の下腹を指さした。──足のあいだ、股のあいだに起きたらそれがあったの、と。
「ワチャ、ヘフ、ヘフ……」
「股がどうかしたのか?」
近寄ってきたジャリンはグローグーの手から卵を取り上げて、
「キッチンから持ってきたわけではなさそうだが……堅い殻だな、なにかの生物の卵だろうか、それとも──…」
ブツブツとジャリンはつぶやきながら、卵をためつすがめつしている。ヘルメットに搭載しているセンサーでもチェックしているのだろうが、それが卵であるらしいこと以上には、なにもわからなかったようである。
「ンーワ」
手を伸ばして、卵をかえしてほしいと訴える。ジャリンはすぐさまグローグーの手に戻してくれた、そっとグローグーは両手で卵を大切に包んだ。
「おまえにはそれがなんだかわかるのか?」
「ンーン」
首を振って答えるとジャリンは、そうか、とだけ言った。腕を組んで思案しているようだが、ややあって、
「そいつがなにかはあとでじっくり調べることとして、まずは朝飯にしよう。グローグー、腹が減っているだろう?」
「うぃ」
「ここに卵を置いて、顔を洗っておいで。──どうした、卵を離したくないのか? 離したくないということは大切なものなんだな?」
「ヘフゥ……」
グローグーにだって、これがなんであるのかわからない。大事なのかも、どうして離したくないのかも。そもそもとして、なぜ目覚めたらこんなものが足のあいだにあったのかもわからないし、──ジャリンの手に取り上げられ、わずかな時間自分の手から離れただけなのに、どうして悲しいような不快な気持ちになったのかも、まったくわからない……。
わかるのは、卵を手にしていると安心できること。船の操縦桿頭の球のような好ましさと、父ジャリンの腕のなかにいるときのような、心底安らげる気持ちになることだった。
ジャリンはベッドサイドに置いたグローグーのポシェットを斜めがけにして、そのなかに卵を入れたらどうだ、と提案してくれた。卵をひとつしまうには、ちょうどよいサイズだった。そのとおりにしてみると、ポシェット越しに卵がふれているのがわかって、手で包み込んでいるよりかはもの足りないが、まずまずの安堵感だ。
「パトゥ!」
両手を挙げて喜べば、
「元気になったようだな、──それじゃあ朝飯としよう、準備をしておいで」
落ち着いたのだろうジャリンもグローグーの頭を数回撫でてから、キッチンへと戻っていった。
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