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攻め:
受け:



「攻めさん、手を貸してください」
 といって受けは、攻めに向かって両手を少し伸ばしてきた。暖を取るようなかたちにまとまった白い手の、指先だけが赤くいろづいていて、寒いんだな、と思う。
 冬を迎える十二月のきょう、攻めは事務所のパソコンの前で調べものをしていた。となりの席にすわった受けも、おなじように作業をしていたはずだ。
「えーと、これでええの?」
 攻めは受けのほうへ体を向けてから、手を開いて差し出した。どうするのかと見守っていると、攻めの手を取った受けは、そのまま抱きしめるように指を添わせてきたのである。
「受けさん?」
 どったの?──と慌てて訊くより先、自分の手がなにかでぬめる気配がして、攻めは察しがついた。
 ──受けはハンドクリームを出し過ぎて、あまった分をこちらへ寄越してきたのだ。
 それを証拠に、かすかに漂うゆずの香りがそれを証明している。──この事務所で、香りつきのハンドクリームを使うのは限られている。そもそもとして、ハンドケアにまで気遣っているメンバーは少ない。
「出し過ぎた?」
「はい、──このクリームのボトル、すごく柔らかくて、押す加減が難しいです」
 攻めが受けにハンドクリームをプレゼントしたのは、つい先日のことだった。──恋人の指先や耳などが赤くなっているのが気になっていて、ドラッグストアを訪れた際に買い求めたのである。店舗の一角には少しお洒落なパッケージのものも置いてあり、赤と緑で装飾されたそれからクリスマスを想起した攻めは、あえて当日でもなんでもない日にクリスマスプレゼントと称して贈ってみた。
 受けは早速、毎日使ってくれた。こまめに塗り込んでくれているようで、──握ったときの指先が、以前よりもしっとりしてきた気がする。お飾りになるのではなく、ちゃんと使ってもらえるプレゼントはなかなかいいものだな、と攻めは自画自賛の日々を送っていた。
 ──こういう経由で、受けの出し過ぎたハンドクリームを手のひらづたいでお裾分けしてもらっていたのだが、
「やっぱり、あなたの手は大きいですね。足りないや」
 さすがに攻めの手をカバーするほどの量ではなかったらしい、受けがひとりごちる。……攻めの左手を取って、こちらだけでも全体を覆えないか試してみているのが、なんともいじらしくて可愛らしかった。あと、少しくすぐったい。
「ほいじゃ、俺にもそれちょうだいよ。あなたのこれに足して、手のひら全部に塗るから」
 と攻めが提案してみたが受けは顔を上げず、
「そこでまたぼくが出し過ぎたら、どうするんですか?」
「そりゃもちろん、受けさんに引き取ってもらうしかないねぇ」
「またまたぼくに、あまりが来るじゃないですか」
「エンドレスやね」
 攻めが笑って答えると、ようやく顔を上げた受けもうっすらと微笑んでいた。白い頬がこころもち赤みを帯びたようで、なんとはなしに攻めは嬉しくなる。──赤らんだ理由が自分にあることが、明白だからだ。

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